生き方

ウーマン村本さんがどんなに非難されても独演会で伝えたかった、たった一つのこと

2020年4月1日夜。

冷たい雨がアスファルトを叩きつけるように降り注ぎ、傘を開けばビニールと骨が一瞬で引き剥がされるような風が吹いていた。

 

ついさっきボクは生まれて始めて、血を吐くよう紡ぎ出される魂の叫びを聞いた。

 

場所は石川県白山市。

街灯の少ない住宅街に佇む、個人宅のガレージのような場所だった。

独演会の会場というには少々狭く、コンクリートを打ちっぱなしにした壁が外気と相まって冷んやりした空気を作る。

 

配置された椅子と椅子の間隔は、世の状況に配慮したのだろう。

心なしか広く感じた。

 

部屋の隅にポツンと置かれたマイクとその側に置かれた丸椅子に向かい、十数名くらいの男女が座っていた。

ほとんどの人がマスクで口元を覆い、物々しい雰囲気を醸し出しながら、時が来るのを静かに待っている。

 

これからこの場で発せられる言葉は、“笑い”なのか“悲しみ”なのか“憤り”なのか。。。

そんなことを考えていると、部屋の後ろの扉が開いた。

そして入ってきた人物に気づいた会場の人々から、どよめきが起きた。

 

ウーマンラッシュアワー村本さんの登場

ボクは本人と気づくまでに少し時間がかかった。

というのも、テレビで見るよりも彼の顔はかなり疲れ、「どうも、こんばんは」と発した言葉は別人のものかと思うくらいにかすれていたからだ。

 

もともとボクは村本さんという人物に対して特別な憧れや尊敬の念を抱いていた訳ではない。

「新しいお笑いのスタイルで一世を風靡した、たまに炎上する若手お笑い芸人」

 

失礼かとは思うがこれくらいの認識しかなかった。

きっと村本さんのことをよく知らない人は、ボクと似たような印象を抱いているのではないだろうかとも思う。

 

村本さんの独演会へと足を運んだきっかけ

東京では政府によって外出自粛が要請され、地方でもコンサートやイベントなどは中止が相次いでいる近頃。

こんな状況下で村本さんは全国を巡って“悲劇を喜劇に”変える独演会を行なっているらしい。そう知ったのは、1週間ほど前のこと。

数ヶ月前のボクなら「逆張り(※)かな」と片付けて、村本さんの独演会には興味を持たなかったことと思う。

 

※世の中の流れに逆らう言動を取り目立とうとすること

 

だけど独演会について知ったその時、ボクの友人が村本さんについて書いた記事が、ふと頭をよぎった。

友人の記事には、「東京から福井までの旅費、滞在費、チケット代を負担するから、村本さんの独演会を聞きにきて欲しい」というオファーを受け、実際に村本さんの独演会へと足を運んだ内容が綴られていた。

>>>友人である画家「サンガーノ」の記事はこちら<<<

 

人をそれほど強く動かす村本さんとは一体どんな人物なのだろう。

人を集めることに批判が集中する今の状況において、どんな想いで独演会をしているのだろう。

ボクは脊髄反射的にチケットを予約していた。

誰を誘うでもなく、たった一人で。

ただただ村本さんの想いを、自分の目で見たいと思ったからだ。

 

村本さんが伝えたかった、たった一つのこと

独演会が始まるや否や、村本さんはマイクの脇に置いてあった赤ワインを手に取った。

そしてボトルのスクリューキャップを捻り、そのままラッパ飲みして一言。

「今日も赤ワイン飲みながらやらせてもらいます」

 

疲れた顔とかすれた声。

酒は喉の痛みをごまかす為ではないかと少し心配になった。

 

しかし語り始めた村本さんの目が鋭く光り始めるのを見て、すぐに悟った。

心配すべきは村本さんではなく自分自身だ。

村本さんの放つ魂のこもった言葉に、圧倒されることなく全身全霊で向き合わなければならない。そう思った。

 

共産主義を掲げる大学生と酒を交わした話や、宮城県丸森町での被災者の話。

志村けんさんの死について。

 

会場を笑いに包みながらも、聞き手が予想だにしない視点で物事を捉えていく。

 

・暗い雰囲気を笑いで壊したい とか、

・自粛ムードはやめて経済回そう とか、

・世の中の流れに逆らいたい とか。。。

 

そんな上辺だけをなぞる考え方は、村本さんの言葉からは一切感じられなかった。

 

村本さんの言葉の重みをどうにかして伝えたい。

ボクは強くそう思うが、彼の魂の叫びとも言える言葉は、彼の鋭い眼光と熱量のこもった声抜きには決して伝わらない。

ボクが言えるのは「どうか一度村本さんの独演会に足を運んでみて欲しい」ということだけだ。

 

では「村本さんが伝えたかった、たった一つのこと」とは何か。

 

村本さんが話題と話題をつなぐように軽い調子で話した次のエピソードを紹介したい。

(記憶を頼りに文字に起こしているので、内容は正確ではありません)

 

ちょっと前のことなんですけどね。

横断歩道の前に20〜30人くらいの人が立っていたんですよ。

赤信号を待ってたんです。

でね。車は全然通る気配がない。

だからボクは待っていた人を横目に赤信号を無視して横断歩道を渡り始めたんです。

するとね、ボクの後ろを一人の人がついてきたんです。そしてその人の後ろに別の二人がついてくる。しまいにゃ赤信号を待ってた全員がボクの後をついて信号を無視してましたよ。

日本って怖いなぁって思います。

 

きっと村本さんは、車通りのない赤信号を待つのはムダだ、ということを伝えたかったのではない。

「他の人が止まっているから」という理由で信号が変わるのを待ち、信号無視をする人がいれば都合よくそれにならう。

この状態を「日本って怖い」と村本さんは表現したのだ。

 

「自分の頭で考え、批判を恐れず行動すること」

 

これが村本さんが伝えたかったことなのだとボクは思う。

 

そして村本さんが提供しているのは単なる「笑い」ではない。

物事を大勢とは異なる方向から捉える「視点」を提供しているのだ。

 

正解のない難しい局面に置いて、ただただ与えられる情報に身を任せてはいけない。

 

外出を自粛しろと言われたから家にこもるとか、経済を回せと言われたから出歩くとかではなく、情報を多角的に捉え、自ら考え、批判を恐れず行動しよう。

 

4月1日の夜。

 

デマや悲しいニュースばかりが目につく中、嘘も偽りもないまっすぐな生き様を、目の前に突きつけられた気がする。

 

 

 

 

 

 

バイぶ〜